TOP INTERVIEW

トップインタビュー

私の考える
仕事論・人材論

株式会社東急グルメフロント
代表取締役社長

山口 聡一郎

「3つの東急一」を実現させ、
仕事も人生も楽しんで成長してほしい

01 新人時代

自ら消費することで、消費者感覚を磨く

皆さんこんにちは。東急グルメフロント社長の山口です。1994年に大学院を修了し既に25年以上経ちましたが、学生時代を振り返ってみると、こうして外食産業に携わるなんて考えてもいませんでした。不思議なものです。では、私の辿ってきた履歴をご紹介しながら、私の考える仕事論と、求める人材について話してみたいと思います。ぜひ最後までお付き合いください。

大学では土木工学を学びました。高校時代までは大得意だった数学ですが、大学の授業で挫折。自分には構造や設計は向いていないと思い、当時はマイナーだった都市の景色などを研究する景観工学(ランドスケープデザイン)を専攻しました。この選択が私のその後の人生を決めていくことになるとは、夢にも思いませんでした。 就職活動時期になると、都市開発や街づくりを手がける鉄道会社やデベロッパーに興味を覚え、研究室の教授に相談すると、「街づくりなら東急がいいぞ」と勧められました。縁もあって、1994年に東京急行電鉄株式会社(現・東急株式会社)に入社しました。

約1年半の現場研修期間後、自分は当然、都市開発・街づくりの事業部に配属されると思っていたのですが、本配属は「生活情報事業部」という、外食やスポーツ、カルチャースクール、ケーブルテレビなど東急沿線のBtoCビジネスの事業部の統括セクションになりました。 都市開発の希望が叶わなかったガッカリ感がありましたが、それも瞬時のことでした。やがて、BtoC事業で働く方々のイキイキとした仕事ぶりを目の当たりにすることで、「東急沿線のお客様の生活をより豊かにする」という使命感にやりがいを感じ、BtoC事業に魅了されていきました。

またこの時期、厳しい指導を受けた上司の教えは、今日の基礎を成すものでした。同じ事業部の8年先輩の現・東急株式会社 執行役員新宿プロジェクト企画開発室長の木村知郎さん(※その後、東急グルメフロント社長も歴任)からは、「いいか山口、若いうちの楽しいこと、面白いことは借金してでも買うんだ。自分で消費を経験して、消費者感覚を磨くことが大事なんだぞ」と説かれたのです。

「自分で消費を経験する」という言葉は、若い私の胸に深く突き刺さりました。さすがに借金まではしませんでしたが(笑)、事業部の先輩や後輩と仕事後に西麻布や三宿など、当時のトレンドスポットを巡ったりしました。徹底した現場主義を叩き込まれ、消費者感覚を磨く礎になったと感じています。外食事業のことはこの時に初めて本格的に学ぶこととなり、その後のキャリアにつながっていきます。

02 キャリアの転機

マーケティングの重要さを知る

入社5年目の1998年、私のキャリアに大きな影響を及ぼす出来事がありました。600講座1万人以上の受講者がいるカルチャースクール「東急セミナーBE」の講座企画・運営の責任者を任されたのです。当時流行雑誌だった『Hanako』を熟読しトレンドを見極め、講座企画の判断を下し、講座紹介のパンフレットを制作しました。各講座の説明文を160字で語る中で、「どうしたらお客様に伝わるか」に徹底的にこだわりました。

消費者目線で現場に立ち続ける内に、次第に「マーケティングを本格的に学びたい」という気持ちが強くなり、社会人ビジネススクール「グロービス」の門を叩きました。 入門編であるロジカルシンキングからスタートし、その後、マーケティングやアカウンティング(企業会計)、人的資源管理などを学んでいきました。すると、「マーケティング論」そのものの面白さに目覚め、同時に「経営」にも興味が湧いてきました。

このときに学んだ「マーケティング=モノが売れる仕組みづくり」という考え方は、今でも変わりません。経営で最も大事な「人」のマネジメントについても、事業を通じて強く意識できたのが良かったと感じています。折しも、「東急セミナーBE」で教務支配人という立場でしたので、マーケティングも人材マネジメントも、失敗を繰り返しながら実務にて経験することで、少しずつ体得できたと思います。
ちなみにこの時、社外の企業人とのつながりを持てたことも、視野を広げるよい機会になりました。とりわけ仲の良かった2名とは、今でも年に数回勉強会を開き、学びを得ています。

  • 2002年3月「東急セミナーBE」青葉台店開業時のメンバーと。後列左から2番目が私。

  • 2019年5月「グロービス」で共に学んだ友人と年度目標ミーティングにて。

03 上司に鍛えられて

「現場主義」の重要性を認識

もう一つ、私のキャリアのターニングポイントとなった出来事があります。2012年に東急の旅行代理店事業(旧テコプラザ)の責任者に就任したときのことです。2014年度から、大手旅行代理店である株式会社JTBと連携した店舗(JTB総合提携店 東急トラベルサロン)にブランドチェンジする方針が決まり、そこから全14店舗のブランドチェンジに邁進しました。

特にパートナーとなったJTBの方々の仕事ぶりには、学ぶべき点が多々ありました。例えば旅館の視察研修の際には、一泊二日で10軒ほどの旅館の客室を殆ど回り、特徴やセールスポイントを押さえていきます。その姿勢は徹底した現場主義でした。実際に足を運び、そのときの情景を目に焼き付けているため、店舗スタッフもお客様へ紹介するときの説得力が格段に上がるのです。ここでも「消費者感覚」の重要性を再認識しました。

また当時事業本部長だった、現・株式会社東急セキュリティ社長の下形和永さんとの出会いも影響大でした。20近い事業を担当していた方でしたが、なかでも旅行代理店事業のブランドチェンジに強い思いを持ってくれて、毎日のように呼び出されては、質問攻めと指導を受けました。事業責任者として本当にタフな2年間でしたが、「強い思いをもつこと」や、「考え過ぎずにスピード感を持って進めること」は、この時期に学んだといえます。

印象的なのは、とある店舗のリニューアルを間近に控え準備を進めていたときのことです。下形さんから「ポスティング(※1)に行ったのか」と問われ、「協力会社に任せています」と報告したところ、「なぜ自分で行かないんだ。スタッフを連れて自分の目で見るからこそ、その街のことが理解できるんじゃないのか」と叱責を受けました。忙しさのあまり、これまで意識していたはずの消費者感覚・現場主義が、他人任せになり疎かになっていたのです。

「おしゃれな高級住宅街」というイメージがついた街も、実際に足を運んで見てみると実は高齢化が進んでいたり、逆に世代交代が進んでいたりなど、現地に行かなければ分からない情報は山ほどあります。結局ブランドチェンジを行った全ての店舗で、スタッフを連れてポスティングに出向きました。社会人生活の中で最も大変な時期の一つではありましたが、周囲を巻き込みながらブランドチェンジに取り組んだ経験は、大きな財産となっています。

1 ポスティング
店舗や商品の広告物を家々の郵便受けに配って歩くこと。

  • 2013年11月 テコプラザ担当時代、視察研修で行った沖縄県竹富島にて。中段右端が私。

  • 2016年1月 トラベル事業担当の商売繁盛祈願で行った神田明神にて。前列左から三番目が私。

04 東急グルメフロントのVISION

キーワードは「チャレンジングな気持ち」と「消費者感覚」

そうしたキャリアを経て2017年7月、東急グルメフロントの取締役営業サポート部統括部長に着任し、営業の責任者として60店舗の事業運営を担当してきました。そして2020年4月、新型コロナウイルスの本格的感染拡大のタイミングで代表取締役社長を拝命し、当社の舵取り役を担っています。

東急の外食事業は50年以上の歴史があり、時代に合わせ業態や店舗形態も変えてきました。一方で、「ケンタッキー」や「しぶそば」といったブランドは、長い時を経ても多くの方々から支持をいただいています。事業環境の変化で「食」のビジネスも大きく変わっていく面もあれば、変わらない面もあります。環境変化をしっかりと読み、その時代にフィットさせていくことが必要です。ひたすら流行を追いかけるスタイルもありますが、当社は沿線にお住まいの方々に支持される、長くお客さまに愛される業態・店舗を中心に展開していきたいと考えます。

当社の強みは、先ずは業態・店舗の多様性にあります。誰もが知る国内ブランドに、独自に開発したオリジナルブランド、さらには著名な海外ブランドがあり、現在16ブランド57店舗(2023年2月末現在)を展開しています。さらに2019年8月より給食事業を加え、東急グループの飲食事業の中核を担う、まさしく「食のプラットフォーム企業」としての位置付けにあります。こうしたスケールメリットに加え、東急沿線という肥沃なマーケットを中心とした事業エリアや、東急グループ会社との連携も強みです。

また社員は複数のブランドを経験することで、様々な事業運営スタイルと、異なるチームで仕事をする醍醐味を経験し、キャリアの幅と深みが増します。成功体験からはもとより、時には失敗からの学びも重要です。そういったチャレンジ精神から、多くの得難い経験をできるチャンスが当社にはあり、これが仕事の面白味や楽しさにつながっています。

2020年に始まった新型コロナウイルス流行は、当社にも極めて大きな打撃を与えました。当社は駅構内のイートイン業態にやや頼り過ぎてしまっていたため、テレワークの普及などによる鉄道利用者数の減少など外部環境の変化は、業績に大きな影響を与えました。その中でコロナ禍始まって以来常に社員に伝えているメッセージは「チャレンジングな気持ちを持って、胸を張って前に向かって進もう」ということです。こうした状況下では、チャレンジングな気持ちと、現場の「消費者感覚」こそが極めて重要です。社員一人ひとりが、現場を深く観察することで、見えてくる課題に臨機応変に対応していくのです。マーケティング用語でいうところのOODA(※2)(ウーダ)に似ています。

2 OODA(ウーダ)
Observe観察(見る)、Orient状況判断(分かる)、Decide意志決定(決める)、Act行動(動く)の略。PDCA(Plan Do Check Action)が計画からの準備が必要なのに対し、OODAは、現場が起点となる柔軟な対応が特徴。

例えば、コロナ禍の初期段階では在宅勤務やおうち時間が増えるなかで「食事には行きたいけれども、外食はしづらい」という声が多くありました。そうした需要に応えるため、当社では早期にテイクアウトやデリバリーの強化、駅・商業施設での出店販売、さらにはオンライン販売をスタートさせるなど、状況判断しながら新たな取り組みに迅速にチャレンジしてきました。

高級お茶ブランド「TWG Tea」のネット通販は、コロナ禍始まってすぐにAmazonでの販売をスタートさせ、自社ECサイトでも展開して今やTWG Tea部門の売上高の15%近くまで急成長してきました。直営事業のしぶそばにおいても、イートイン以外の収入源としてテイクアウトの天ぷら・おむすび・生そば、デリバリー等のチャレンジを迅速に進めました。

また、FC事業のフランチャイジーとして、フランチャイザーにも様々な提案をし続けています。当社が展開するドトールコーヒー6店舗でデリバリーサービスを2020年7月にスタートさせたのも、まず当社がやりたいと提案したことでドトールブランド初のチャレンジとなり、手応えも大きく今では全国の店舗で展開されています。またリトルマーメイド鷺沼店では、当社提案でハーフサイズのパンを4種類組み合わせて作った「TAKBOX」という商品を開発し、テイクアウト用のランチ商品として大人気となりました。当社が提案した「笑顔のクリームパン」は好評のため、全国のリトルマーメイド店舗での展開に至りました。

こういった経験を会社全体で共有することで横展開にも繋がり、各店舗の経験値も高まり、コロナ禍で繰り返した「拡大期」と「収束期」においても、その変化に合わせて各店舗で何をプッシュしていくかの戦術も身についてきました。
コロナ禍が少しずつ落ち着き2類から5類への移行も決まる中、ウィズコロナ・アフターコロナのライフスタイルもまた変わろうとしています。コロナ禍前の姿には戻らないであろう中、お客様が何を求めているのかをタイムリーに把握し、そのニーズに合った商品やサービスを提供する。そのために会社全体で引き続きチャレンジングな気持ちで仕事に臨んでいます。

様々なチャレンジを試みる中、まだまだ力不足とは感じますが、伸びしろも大いにあると感じています。環境変化を先読みする中で、しっかりと長くお客様に愛される業態と店舗づくりをすることが、当社が進むべき道と考えます。

05 学生の皆さんへのメッセージ

「ワーク・アズ・ライフ」の中で、仕事も人生も楽しみ成長してほしい

就職活動中の皆さんは、どのようなことを考えているのでしょうか。就職活動という人生の節目を迎え、期待も不安も入り混じっているのではと思います。
私も当社に来たときに不安はありましたが、歴代の社長陣から「グルメフロントは人に優しい会社だよ」と聞き、営業部長、そして社長として会社の皆さんとともに前へと歩むなかで、本当に人に優しい会社だと実感しています。
東急グルメフロントには「助け合うことが当たり前」というような企業文化が根付いています。コロナ禍で苦しいときも、多くの助け合うシーンが見られました。私も従業員の皆さんに日々助けられながら、自分のベストを尽くしています。

だからこそ私は、今後は、東急グルメフロントが数ある東急グループの会社の中で、
「東急一、人にやさしい会社」であり続け、
「東急一、人が育つ会社」として、一人ひとりが成長できる環境を整え、
「東急一、チャレンジ精神をもった会社」として、困難な時代のなかでも発展できる企業になれるよう、当社を引っ張っていきたいと考えています。

当社へ入社する方には、ぜひとも「働くことを楽しみ、仕事を通じて成長してほしい」と願っています。「ワーク・ライフ・バランス」という言葉は、仕事とプライベートを別物と捉えがちですが、私は「ワーク・アズ・ライフ」として、常に相関関係にあると考えています。経験上「どちらか片方だけが上手くいく」というケースは少ないものです。充実した人生を過ごすためには、プライベートも大事にしてほしいと思います。自分の大切な人を大事にしてほしいのです。その心の充実が、仕事にも仲間にも良い影響を与えます。だからこそ、仕事も楽しんでほしいと願っています。

「成長する」というキーワードも重要です。「自分が育ち、仲間が育つ」ことを強く意識してください。その意識を持つかどうかで、10年後の成長の度合いが違います。私自身、振り返ると大変な時期も数多くありましたが、それでもあきらめずに強い思いを持ち前を向いて進んできたことが、自身だけでなく周囲のメンバーの成長に大きくつながったと確信しています。

私は、就職活動時に思い描いた「都市開発」や「街づくり」とは異なるキャリアを歩んできました。しかし今では、東急グルメフロントというフィールドで、外食産業を通じて「東急沿線のお客様の生活をより豊かにする」という使命に貢献できる喜びを感じています。コロナ禍を乗り越えて、会社として強くなったと体感しています。
これから先も様々な困難が待ち受けていると思いますが、東急グルメフロントのメンバーとともに前へ進み成長できると信じていますし、私自身も若い皆さんと一緒に、まだまだ成長したいと強く願っています。

10QUESTIONS &
10ANSWERS
10問10答プロフィール

株式会社東急グルメフロント 
代表取締役社長

SOICHIRO YAMAGUCHI

Q1.生年月日、血液型、星座:
1969年5月、B型、ふたご座
Q2.出身学部・学科:
大学院修士課程 土木工学専攻 修了
Q3.入社年:
1994年
Q4.自身の性格を一言で:
温厚、好奇心旺盛、食いしん坊(とよく言われます)
Q5.趣味、休日・余暇の過ごし方:
マラソン。2012年に走り始め、これまでフルマラソンを16回完走しています。ベストタイムは4時間15分。馬場前社長もマラソンの世界に引きずり込み、あっさりタイムを抜かれました。缶詰収集は2009年頃から始めて、自宅には200缶以上のコレクションがあります。休日は、家族一緒の時間を過ごすことが何より楽しみです。
  • 2019年11月 横浜マラソン完走後の一コマ。

  • 2020年2月 愛媛マラソン完走後の一枚。頂上に見えるのは松山城。

  • 缶詰コレクションの一部。宮城県石巻港で水揚げされる「金華さば」の缶詰など珍しい品もあります。

Q6.読書傾向:
ミステリー、ビジネス書
Q7.好きな映画・音楽傾向:
映画は泣ける映画が好きで、「容疑者Xの献身」は何度見ても泣けます。音楽は何でも聞きますが、「BOØWY」など80年代邦楽と洋楽(MTV世代)が好きです。
Q8.好きな言葉:
「実るほど頭を垂れる稲穂かな」「やらないよりやる」「相手に伝わったことが、相手に伝えたこと」「支援型リーダーシップ」
Q9.もし3カ月休みが取れたら何をしたいですか?
家族で宮古島に行き、宮古そばを食べ、美しい海景色を楽しみたいです。
Q10.好きな食べ物は?
①「天下一品」のこってりラーメン(大学時代から食べ続け、京都本店は自分の聖地です)
②「崎陽軒」のシウマイ弁当(パッケージから構成食材まで全てが完璧!)
③「ハングリータイガー」のハンバーグステーキ(子供の頃からのご馳走です)
④「ケンタッキーフライドチキン」のオリジナルチキン(小2から慣れ親しんだ味です)